板垣真実 / あしたのパン

会期:2016年10月15日(土)~10月30日(日) 
開廊時間:12:00~19:00
休廊日:月曜日
オープニングレセプション:10月14日(金)/ 18:00~
*六本木アートナイト 10月21日(金)・22日(土)は、22時まで開廊


青春と白秋と朝  -板垣真実「あしたのパン」をめぐって

   「彼女はブラジャーをはずしているところですか、それともつけようとしているところですか」と私は尋ねた。作家は笑顔で答えてくれたが、しかしすぐに「ですが、どちらでもいいんです」と訂正した。

   青い春と書いて「青春」。誰もが知る日本語である。四季の名に色を冠して人生の段階を表現するこの言葉は中国の五行説に由来しており、知名度はぐっと下がるがその後には「朱夏」「白秋」そして老境を表す「玄冬」が続いている。板垣真実による人物像のモデルたちはちょうどこの青春と白秋に該当する人々で、そのほとんどは女子高生か背広姿のおじさんだ。

   副題の「あしたのパン」は明朝の食事を指している。作家によれば、誰もが親しみを覚えるような日常の一場面から引用したものだが、同時にそれはいのちをつなぐための行為、そして明くる日という直近未来の象徴でもあるという。

 時おり耳にする常套句にあるように、たしかに朝は誰にでも平等にやってくる。しかし残りの人生において見込まれる回数の差は、青春と白秋では歴然だ。そして「朝食という一種の儀礼」を軽んじたり茶化したりすることができるのは、その意味を実感するにはまだ若すぎる前者のみに許された特権であるともいえる。食パンをくわえて走る女子高生が曲がり角で転校生と鉢合わせするような鉄板ネタもまた、その権利なくしてはありえないだろう。

  自分の胸に手を当ててほしい。その青春時代の朝、欲求の対象はパンなどではなかったはずだ。冒頭の質問の答えは、そんな回顧とともにそのホックを見つめる者にだけ降りてくるのかもしれない。

(文・山内舞子/キュレーター)

作品:「昆虫採集」 2016 桐塑、パステル 100×73×30㎝

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